1億%自己満足

自己満足、自己顕示欲の文字化

JIL SANDERが絶賛される理由

ブランドによって若干時期は異なるが各コレクションが発表される時期となった。数年前まで一世を風靡していた、ストリート、特にラグジュアリーブランドが主導のラグジュアリーストリートの面影は見る影もなくなり、エディのCELINEを中心にモードへの回帰の流れが強くなってきたように感じる。

ストリートカルチャーから発祥したストリートファッションの流行は、デザイナーによって育まれてきた「モード」という服飾文化からすると、いわば異物のようなものであるため、浄化されその流行が終息し、モードという本来あるべき姿に回帰していくのも当然である。

しかし、近年のクリエイティブ・ディレクターの去就が原因で、モードという姿に容易に戻れないブランドが出てきてしまった。言うまでもないが、ビッグメゾンにとってブランドイメージというのは何物にも代えがたいほど重要なものである。それは創業者が目指した服作りの形であり、デザイナーが変わっても数十年間受け継がれるものでもあり、ブランドの核でもある。ブランドイメージを一新するというのは、トムフォードが倒産しかけのGUCCIを立て直したように、つぶれかけのブランドに残された最後の手段だ。しかし、これをしてしまうと、今までの顧客を裏切り、創業者の意図と異なる形で客に服を提供することとなってしまう。だからこそイメージをひっくり返してしまうようなCDの雇用はあまり行われるべきではない。

しかし、ストリートファッションの流行に伴い、ブランドイメージを捨てるようなCDの雇用がいくつかあった。代表的な例を挙げると、BALENCIAGAのデムナ・ヴァサリア、ヴィトンのヴァージルアブローだろう。特にBALENCIAGAはターゲットの変化、ストリートを背景とした服作りによって、もはや田舎のヤンキー御用達ブランドの一つとなり下がってしまった。流行の変化に伴い、デムナはモードへの回帰を目指しているが、やはりそこに本来あったはずのBALINCIAGAの姿はなく、モードを模った何かがそこにあるだけだ。

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BALINCIAGA 2020ss


クリストバルが築き上げたBALENCIAGAの中身は消え去り、今残っているのはブランド名を冠したただの抜け殻である。

 

このような、利益だけを追い続けた結果、100年間守られてきたブランドの本質をつぶし、批判を受けるようなブランドがある一方、対照的にブランドイメージを保持し続け、モードへの回帰に伴い高い評価を受けているブランドがある。

 

それがタイトルにもあるよう、元Supremeのヘッドデザイナーであったメイヤー夫妻がCDを務めるJIL SANDERだ。知っている人もいるかもしれないが、創業者であるジルサンダーは生粋のミニマリストであり、彼女の服作りにもそれは濃く反映されている。ミニマルな服作りを行うJil Sanderに、ミニマルとは縁遠いストリートファッションの代表格である、Supremeのヘッドデザイナーであった彼らを就任させるというのは、イメージを壊しかねない選択である。また、不調であったJil Sanderの経営をストリートファッションの流行に乗って立て直すという企業側の思惑もあったのだろう。だが、メイヤー夫妻は多くの服好きと企業の予想を裏切った形で服作りを行った。

 

彼らはいたって「ミニマル」な服作りを行ったのである。これはJil Sanderの創業から変わらず守り続けられてきた服作りの形であり、一時の流行に左右されない、Jil Sanderというブランドの本質そのものだった。彼らがJil SanderのCDとして行う服作りは、Supremeや彼らのブランドであるOAMCで行うそれとは大きく異なったものであった。

多くのブランドが、ブランドイメージをCDのイメージへと塗り替えていく中、彼らはブランドの本質を再解釈して、強調して、アップデートしたのである。

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Jil Sander 2020aw

メイヤー夫妻はこのようなブランドへのリスペクト、時代や流行に左右されない本質的な服作りへの姿勢が評価されている。夫のルークメイヤーはVogueのインタビューで以下のように語っている。

 

ルーク:数ヶ月で終わってしまうようなトレンドを作り出すことがポイントではないんだ。今生きている時代において、使い捨てできるようなものを作り出すのは正しいことじゃない。魅力的なプロセスではないよね。僕たちはこのブランドを驚くべきほどのクオリティで、信じられないくらい魂のこもったもの、そして服作りという芸術の真価を体現するものとして見ているんだ。ジル・サンダーは、今まさに起こっている出来事とリンクしている。革新的な側面があって、新しいテクノロジーや経験、そして人々のライフスタイルに対してもかなりオープン。ハイクオリティと工芸性はとてもモダンなコンセプトで、これらが廃れることは決してない。シンプルで非常に正しいもの作りへのアプローチがとても重要だと思っているよ。ジル・サンダー自身の制作における正確性は常に厳密なもので、彼女はこの点に関してまったく妥協が無かったからね。

 Jil Sanderは輝きを取り戻した。彼らの言う通り、結局いつの時代でも時代の最先端を走り、人々の心を惹きつけるのはのはシンプルでハイクオリティな服なのだ。